2002年1月28日 北欧レコード買付日誌(スウェーデン編)8 ~ シングル盤大量買い。ピザ屋の親父と対峙。
1月28日
今日は特に予定は入れてなかったのだが、8時半には目が覚めてしまった。
通常、休日は必ず昼まで寝ている筆者のとっては驚愕の出来事です。
シャワーを浴びた後に、前回S氏から教えてもらっていた、レコード屋がたくさんあるという地帯を、独りで攻めてみることに。
東京でいう西新宿界隈的な箇所とのことで楽しみに出かける。
中央駅まで地下鉄で移動し、そこから地図を片手にテクテク歩いて行ったのですが、この日も吹雪でフラフラに。
途中、屋台のホットドッグを頬張りながら探したのだが、どうやら少し場所がずれていたらしく、あまりたいした店は見つけられず終いでした。
残念だけれども、吹雪の中を往く当てもなく歩きまわるのはトラウマなので、12時頃には見切りをつけ、2日目に襲撃した安くてシングル盤が大量に有る店を再度訪問することに。
レコード・フェアーの時に再度行くという約束を交わしていたので、何か面白い品物を準備してくれている事を期待しつつ地下鉄に乗り込みます。
最寄り駅へ到着したのですが、店の場所の記憶があやふやだったので、記憶を辿りながらブラブラと歩いていると、店の前で必死に雪かきをしていた店主を発見!
早速猟盤開始だ。
店の中はストーブで温かく、お宝の山に埋もれて最高の気分!
今日は他に予定はないので、ゆっくりと1枚1枚丁寧に物色出来ます。
構造が面白い店で、迷路みたいに複雑になっており、まず店に入った箇所にあるメインルームでは大量のLPとCDを物色し、現地アーティストのCDシングルを大量にキープ、そして、北欧系のハードロックのLPも大量にキープ。
そして、隣の部屋でロック/ポップス系のLPを物色、こちらではあまり目ぼしいものが無かったので、そこから廊下を抜け、試聴ブースのある、主に現地アーティストのLPが置いてある部屋を物色。
その後、その部屋の隣にあるシングル盤が山のように置いてある部屋へ移動。
前回は時間に追われ、あまり物色出来ず気になっていたので、今回は主にこのシングル盤の部屋を徹底的に漁ることに。
指にお約束のバンドエイドを巻き、準備万端。
壁のラック一面に雑然と箱に入れ並べられたたシングル盤を片っ端からチェック開始だ!
全く知らないアーティストでもジャケが気になれば、取り敢えずキープし次から次へと山積みにしていく。
試聴も出来るのですが、値段が安いので時間を無駄に出来ないので、とにかくジャケ買い&レーベル買いを続ける。
ここで密かにコンプリートを目指しているPANG!レーベルのシングル盤を大量に揃えることが出来た。
一番客だったのですが、吹雪が凄いので全く他の客が現れず、雪かきが一段落したマスターが
「これどう?」
と、いきなり北欧ハードロック最難関アイテムの一つ、HIGHBLOWの1stシングルを持ってくるのだから、その場で脱糞失禁してしまいそうだった。
度肝を抜かれるとはこのことだろうか。
値段も恐ろしく安い。
その後も付きっ切りで次から次へと
「これどう?」
「これいいぞ」
「これは買っとけ」
とお勧め商品を出してくれた。
感謝感謝。
レコード屋さん巡りはこれだからやめられない。
結局17時過ぎまでこのシングル盤の部屋で粘り、平積みでおおよそ筆者の腰の高さ程になる品物を選び出す。
さすがに、「飲まず食わず出さず(トイレにも行かず)」で続けていたので、体力と集中力も限界に達し、精算をしてもらう為に、メインルームへと戻る。
レコードに積もっていたホコリを大量に吸い込み続けたせいか、非常に喉が痛い。
手のバンドエイドも既にボロボロだ。
全く気が付かなかったのだが、メインルームにはいつの間にか何人か別のお客さんが来店していて、マスターと仲良く談笑しておりました。
量が多いので精算にえらく時間が掛かったのですが、トータル金額から10%程オマケしてもらい、クレジットカードで清算。
今回のレシートは前回より短く、1メートル程度で済んだ(笑)。
レシートも1mを越すと巻物みたいで趣を感じる。
カートとバックパックにいそいそと愛しいレコード達を詰め込み帰路へ。
吹雪が続き、日も暮れて寂しく独りで雪の積もった悪路を40kg以上はあるレコードと悪戦苦闘しながらホテルへと帰る。
帰宅ラッシュの時間帯と重なり、身動きも取り辛く非常に疲れた帰り道だった。
ホテルに帰る際に、あまりに荷物が重かったのか少々腰を痛めてしまった。
夕食はいつものピザに。
ピザ屋に入ると寡黙な店主が筆者をちらりと見て
「また来たな」
とばかりニヤリと無言でメニューを差し出してきた。
おっ、と思いつつ、筆者も無言で購入物を指差し、テーブルに座りテレビを見上げながら出来上がりを待つことに。
聞こえる音はテレビの小さい音と、背後で店主がビザの生地を練る音のみだ。
いや、よく耳を澄ますと外で雪の吹雪く音も微かに聞こえる。
店の中は石窯のおかげか、ほど良く温かく、暫く座っていると頬がジンワリと火照ってくる。
暫くして、店主の一連の動きが終えたことを、その静寂が筆者に教えてくれた。
チラッと振り返ると、店主のその風貌に似合わず几帳面にトッピングされたピザ生地が姿を覗かせている。
それが改めて空腹だった事をグッと教えてくれるのである。
店主がおもむろに傍らから大きい木さじを取り出すと、片手でその上に手際良くピザを載せ、石窯の奥へ奥へとササッと丁寧に据える。
すると、たちまちチーズの焼ける匂いとトッピングの
「グツグツ、グツグツ」
と沸る音が聞こえてくる。
その香ばしい匂いと、微かながらも外の雪の吹雪く音を掻き消すかのように、小さく聞こえてくる焼ける音がたまらなく食欲をそそる。
果たして耳で匂いを嗅いでいるのか、鼻で音を聞いているのか、口で焼きあがりつつあるピザを眺めているのか、分からなくなってきそうな独りのレコードコレクターがそこに座っているだけなのである。
そんな、ピザと店主との対峙に無防備な状態で入り込んでしまい、防戦一方のレコードコレクターに何が出来るだろうか?
すぐに持ち帰られるように代金をポケットの中に準備し、確か買い溜めしてあったビールがまだ冷蔵庫の中に何本か残っていた事を頭の中で再確認することぐらいだけしか無かったのではなかろうか。
焼きあがったピザを店主が丁寧に箱に詰め、じっと見ていた筆者に目で合図してくる。
心のなかで礼を言いながら、無言で代金を払い、ドアを開け、店を出て、雪が吹雪く暗闇の中をテクテクと、レコード達の待つホテルへと戻っていったのでありました。
・・・続く