お客様のご感想 2013/2/4 ~ シャンティーズ、アストロノウツ、ベンチャーズのパイプラインから考察するサーフ・ロック
何回か貴店からLPを購入させてもらったTと申します。
毎回、安藤様のウィット溢れるメルマガを読ませてもらっています。
さまざまなジャンルのLPからコメントの対象に選ぶのは大変だと思います。
でも、こうした発信が貴店のステイタスを高めることにつながっているのはまちがいないことです。
今回は1963年の思い出の曲「パイプライン」にふれられていました。
近くのライブ店に行くと、高校生みたいな若い女の子がこの曲を演奏していたことがあり、 今でも若い人に知られているんだ、と思い嬉しくなったことがあります。
でも、そのとき、 「それでは今度はヴェンチャーズで…」と紹介していたので、休憩時間に、オリジナルは シャンティーズなんだと言うと
「え?、知らない」
じゃパイプラインというのはどういう意味か 知ってると聞くと、やはり
「知らない」
ということでした。
でも、それでいいんでしょうね。いい曲だと 思って演奏してくれることが大事なんです。
ところで、Chanty'sというのはカリフォルニアの5人組グループで、当時のサーフィン・ブーム に乗って、このPipelineが63年3月にビルボード4位にランクされたことで知られています。
この曲以外にはビルボード100位以内のヒットは1曲もなく、いわゆる完全な「一発屋」です。
ただ1曲のヒットだけでビルボードに名を留める「一発屋」は数多くいますが、「一発屋」の ヒットには結構印象に残るナンバーが多く、カバー曲が多いというのもおもしろいことです。
63年というのは猫も杓子もサーフィン・ギターという年で、アメリカのみならず、ヨーロッパまで 巻き込んで、いい曲なら何でも演奏すれば日本では結構商売になるということから、カバーが 多くなり、しまいにはどれがオリジナルか、そんなことはマニアの詮索にまかせておけばいい、 という状態になっていた感すらします。
さらに日本では、ギターサウンドの叙情的な雰囲気に日本語の歌詞を付加し、この翌年ごろ からいわゆる「グループ・サウンズ」なるものにつながっていったことはいうまでもありません。
時あたかもビートルズに代表される「ブリッティシュ・インヴェージョン」の時代と重なって、ギター サウンドは時代の寵児となったのですが、日本の「グループ・サウンズ」は独創性の無さから 次第に消滅の運命を迎えることになりました。
それはともかく、Chanty'sのPipelineがアメリカ西海岸で爆発的ヒットとなったのは、サーファーの気持を心地よくすぐったからでしょう。
そもそもPipelineという言葉自体がサーフィン用語で、大きな波のうねりの間にできた空間のことをいうようです。なるほど波がつくったPipelineのようで、言いえて妙です。
それにこの曲の高音から一気に低音に移行するギタートレモロの冒頭は、一回聞いたら忘れないし、ギターを持ったら一回は弾いてみたくなるフレーズでしょう。
ちなみに、Chanty'sのあとすぐに登場したのがSurfarisで、Wipe Outがビルボード2位の大ヒット (63年6月)となったほか、100位以内に4曲を記録しています。
この曲のタイトルもサーフィン用語 で、波に乗りそこね、サーフボードから転落することをいうようです。
この曲の冒頭は奇妙な笑い声 から始まりますが、これはWipe Outした仲間への嘲笑なのです。
なお、Astronautsというボルダー(コロラド州)の5人組は、64年に日本で「乗ってけ乗ってけ…」 (太陽の彼方に)というカバーで知られていますが、アメリカでは94位の曲が1曲あるだけで、まっ たくマイナーな存在です。
60年代に日本中をギター・フリークにさせてしまったヴェンチャーズの曲は数知れ ないほどあるのですが(なにしろ、日本の歌謡ムード曲まで作曲していますから)、 このうちビルボード100位以内の曲は60年から69年までに14曲あります。
いかに ギターサウンドの時代だったとはいえ、このジャンルでの大成功者といえるでしょう。
ちなみにこの時代、イギリスではクリフ・リチャードのバックを務めていたシャドウズ が数々のヒットを生み出していたのですが(私なんかは、ヴェンチャーズよりもメランコリーなサウンドのシャドウズの方が好きですが)、ビルボード・ヒットはゼロなのです。
というわけで、60年代のアメリカでは、ギター・サウンドはサーフィンとヴェンチャー ズということになっていました。
この構図にときどき異邦人が入ってきて、たとえば 61年に大ヒットした「アパッチ」(ビルボード2位)はデンマークのヨルゲン・イングマン 盤がオリジナルで、ヴェンチャーズもシャドウズもともにカバー盤です。
まぁ、好きな 演奏を聞けばいいわけですが、コレクター・アイテムとしてはヨルゲン・イングマン盤 しかありえません。
同年にヒットした「峠の幌馬車」がわが国ではビリー・ヴォーン盤 しか入手しえなかったのですが、実はストリングス・アロングス盤がオリジナルだった というのと同じような事情でしょう。
当時の日本では、米大手以外のレーベルは入手 しえなかったか、入手できてもラジオ番組ではマイナーな存在でしかなかったような 気がします。
それはともかく ヴェンチャーズのビルボード100位以内の曲のうちスーパー・ヒ ットともいえるベストテン曲は3曲あって、Walk Don't Run(60年2位)、Walk Don't Run '64(64年8位)、Hawaii Five-O(69年4位)となります。
64年の「10番街の殺人」(35位)や65年の「ダイヤモンド・ヘッド」(70位)も日本のファンには忘れがた い曲ではないでしょうか。
ともあれ、50年前のヒット曲時代から今でも現役なのはローリング・ストーンズと ヴェンチャーズぐらいなものでないでしょうか。
聞く方がくたびれてきているというのに、 たいしたものです!
こういう曲が今でも入手できることはすばらしいことですが、コレクターからすれば、カバーものや 初発以外のレコード番号の盤には残念ながらあまり価値はないのでしょう。
私なんかは、オリジナル の録音であればそういうことにこだわらないのですが。
ちなみに、ここにあげたサーフィンの名曲を 私は米ライノ盤LP(R1-70089)で聞いています。
こういう盤が貴社のリストに掲載されれば心ときめかすのですが。
それにしても、毎回すごいリスト・アップで、そのうち何か宝物にめぐり合うのではないかという期待 を抱かせるに十分です。
セコハン・コレクター(中古盤コレクター)の醍醐味でしょうね。
そのクリーニングの量たるや並みの話ではないのでしょうが、腱鞘炎にはくれぐれも気をつけて ください。
埼玉県、T様
ヴェンチャーズ| これぞヴェンチャーズ
ラベル: お客様のご感想